前回のゼロ戦EP500の例では重心位置を30%MACとして計算しました。
じゃあ重心位置が動いたらどうなるのよ?って話ですが、早速計算してグラフにしてみましょう。
左が前回と同じ重心位置30%MACで、右が説明書通りに設定した35%MACのグラフです。

どうでしょう?
パッと見で明らかにグラフの傾きが異なっていますね。
35%の方がなだらかになっています。
このグラフの傾き、実は前回紹介したCmαという値です。
30%MACの時のCmα:-0.752
35%MACの時のCmα:-0.502
Cmαは姿勢が崩れた時にどの位の復元力を発生させるかという目安になり、マイナスで大きいほど大きな復元力が発生します。
さらにもう一点違いがあります。
横軸と交わるCm=0になる釣り合い迎角が約9度まで上がっています。
主翼のゼロ揚力迎角が-2度と仮定しているので、飛行姿勢は9-2で7度機首上げで釣り合うという事になります。
重心が後ろに行ったことによって、頭上げでゆっくり飛ぶようになります。
なんだかやっぱり重心位置で飛行速度を決められそうな気がしてきますね。
しかし
決定的に違うのは縦の安定を支配するCmαの値が悪化してしまっているという事です。
さて、釣り合い迎角が9度などと高迎角で飛ぶと失速の恐れがあるので、エレベータートリムを取って迎角6度で釣り合うようにしてみます。

今回の計算では、エレベータートリムを1mm頭下げに入れると35%MACでも最初と同じ姿勢(つまり同じ飛行速度)で飛ぶようになります。
次に下のグラフを見てください。
緑の線は重心位置が35%MACで、釣り合い迎角が6度になるようにトリムした状態。
ブルーの線は重心位置が30%MACで、同じく釣り合い迎角が6度になるようにトリムした状態です。

この6度の釣り合い迎角でトリムされた飛行が、突風を受けて9度に迎角が上がってしまったとします。
その時のCmの値は明らかにブルーのラインである30%MACの方がマイナスで大きな値になっています。
つまり、復元力が大きいという事です。
重心を前に移動すると、このグラフの傾きはどんどんキツくなり、少しの迎角変化で大きな復元力を発生するようになります。
逆に後方に移動すると、傾きが緩やかになり重心後方限界になると真横になってしまい、Cm=0のラインと交わらなくなり、釣り合い迎角がなくなってしまいます。
このように飛行機が縦安定を持つためにはグラフの傾きが右肩下がり、つまりCmαがマイナス(Cmα<0)である必要があります。
次のグラフは重心位置を変えずにエレベータトリムを使って姿勢を変化させた様子です。

機首上げトリムを1mm入れると、釣り合い迎角が6度から8度に変わっています。
逆に機首下げトリムを1mm入れると釣り合い迎角が4度になります。
見ての通りグラフの傾きは変わらず、平行移動しているのが分かると思います。
つまり縦の安定度を変えることなく、姿勢を変化させることができるという事です。
重要なのは
・重心位置を動かすとグラフの傾きが変わる。
・トリム(昇降舵)を動かすと傾きが変わらず平行移動する。
という点です。
どちらの場合も釣り合い迎角を目的位置までグラフを移動させる事は可能です。
しかし、
重心位置を移動させて目的の釣り合い迎角を実現させることは、同時に縦の静安定も変化させてしまっているという点に注意する必要があります。
なので重心位置をずらしながら様子を見て、最終的にトリムをあわせるという作業と、最初から適正範囲に重心を置いて、調整はトリムだけで行うという作業は根本的に異なっているのです。
また長くなりましたので、さらに次回に続きます。。。
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